• 2024年8月に発売された ASUS の13.3型のクリエイター ノートパソコン
  • 小型で約1.4kgという携帯向けノートなのに GeForce RTX 4070 を搭載
  • 第2世代 AI CPU の Ryzen AI 9 を搭載、モニターも OLED の高性能機
ASUS ProArt PX13 HN7306

こんな人にオススメ!

  • 最強のモバイルノートが欲しい人
  • 携帯性も含めて妥協のないノートPCを求めている人
  • Ryzen Zen5 や第2世代 AI PC を試したい人
このレビューは実機の貸出を受けて作成しており、リンクにはアフィリエイトが含まれています。
(提供元:ASUS JAPAN株式会社)

AMD Ryzen AI(Zen5)始動

2024年8月、AMD社の最新設計 Zen5 のノートパソコン用CPU「Ryzen AI 9 300シリーズ」がようやく登場した。
ASUSは、そんな Ryzen AI 9 を搭載する製品をいち早く市場投入しており、ゲーミングノートから一般向けのノートPCまで、幅広いパソコンがラインナップされている。

そして今回ここで紹介するのは、その中でも最も異色と言える機種……

13.3型の小型モバイルノートでありながら、上位型CPUである Ryzen AI 9 HX370 を搭載し、さらにビデオカードに GeForce RTX 4070 を積んでいるという、可能なのかソレ!? と思ってしまうような高級クリエイターノート。
ASUS ProArt PX13(HN7306)だ。

ASUS ProArt PX13 HN7306

詳しくは本文で解説するが、搭載する Ryzen AI 9 HX370 の性能は想像以上であり、第2世代の AI PC であるため NPU(AI専用コア)の性能も現行トップである。
電力効率も優れており、比較的低い電力で高い性能を発揮できる。

内蔵グラフィック機能も優れているが、本機はさらにビデオカード GeForce RTX 4070 Laptop を搭載するため、創作はもちろん、ゲーミングモデルとしても一流の3D性能を発揮する。

そんなヘビー級ノートと同等のパーツが13.3型のコンパクトな筐体に収まっているのは、もはや普通ではなく、おそらくASUSしか作れない。
3K高解像度の有機ELディスプレイ(OLED)も搭載しており、映像も非常に美しい。
クリエイター向けであるため、Photoshop などで活用できるダイヤルパッドも搭載している。

価格はやはり安くはなく、税込429,800円
ただ、GeForce RTX 4060 モデルもあり、こちらなら税込299,800円と、機能や構成を考えると割安な製品となっている。

以下、見どころの多い本機の詳細をお伝えしていきたい。

外装とインターフェイス

デザインとキーボード

13.3型のノートパソコンのため、外観はかなりコンパクト。
高性能なCPUとビデオカードを搭載しているため、1.38kgと見た目より重量はあるのだが、それでもこのサイズは手軽で扱いやすい。
携帯するとしても、約1.4kgならそこまで重くはない。

カラーは全体がつや消しブラックで、プロモデルらしい見た目。
表面には汚れをはじく特殊加工が施されており、サラサラだが持ちやすくて滑りにくい触感だ。
隅の方に目立たない感じで ProArt のロゴと鏡面仕上げのマークが付いている。

ASUS ProArt PX13 HN7306 天板

ナノブラックの天板。濃い墨色に近い

ASUS ProArt PX13 HN7306 ロゴとマーク

ProArt の印字。丸いマークがアクセント

キーボードやモニター周辺も黒一色。
13.3型なのでテンキーはないが、キーボードにはかなり強めの反発があり、打鍵感は良好。
指に来る衝撃は少なく、サイズの割にキーストローク(深さ)もある。

操作面での大きな特徴は、タッチパッドにダイヤルが付いていること。
これを ON にしてクルクル回すことで、画像加工ソフトでブラシの大きさを変えたりできる。

タッチパッドはギリギリまで広げられていて扱いやすく、しっとりした感触で、触っていて気持ちが良い。

ASUS ProArt PX13 HN7306 キーボード

クッキリした印字で強反発のキーボード
もちろんバックライトも備わっている

タッチパッドの右上を内側にスライドすればダイヤルがONになる

米軍規格(MIL-STD 810H)の耐久テストを12試験26手順でクリアしており、耐久性もかなり高い模様。
実際、角ばった形状や大型のヒンジなど、とても頑丈そうな作りをしている。

電源ボタンは右側面に付いていて、使い辛くはないが、最初はちょっと気付きにくいので注意したい。

モバイル性能(携帯性・バッテリー)

サイズは横30cm、縦21cmで、ほぼA4サイズである。
よってA4のノートやファイルが入るバッグなら、本機も入れられる。
改めて、このサイズに Ryzen AI 9 と GeForce RTX 4070 が入っているのが信じられない。

PCに詳しい人だと冷却が心配になると思うが、ASUS 独自のデュアルファンとヒートパイプ、液体金属グリスによって、優れた冷却構造を持つという。
従来より低い電力で高性能を発揮できる Ryzen AI であることも影響していると思われる。

ASUS ProArt PX13 HN7306 モニターとPC外観

このコンパクトな筐体にゲーミングマシン顔負けの高性能パーツが……

ASUS ProArt PX13 HN7306 冷却機構の資料画像

資料画像より。パーツメーカーASUSの冷却技術がフル活用されている

バッテリーは 73Wh もあり、13型ノートPCとしては最大限の大きさだろう。
公称のバッテリー駆動時間はまだ明らかでないが、CPU/GPUの動作モードをうまく使えば、かなりの長時間の駆動ができるはずだ。
(動作モードの詳細は後述)

ACアダプタは200Wという、かなり大出力のものが用意されている。
Ryzen AI 9 と GeForce RTX 4070 のピーク電力を考えると、これぐらいは必要だろうか。
そのぶん大きく、重さはコード込みで565gと軽くはないが、出力を考えればやや軽い方だ。

ASUS ProArt PX13 HN7306 重量計測

重量対性能という点でも本機は優れている
ビデオカード搭載ノートでは最軽量級

ASUS ProArt PX13 HN7306 ACアダプタの重量

さすがにACアダプタは高出力で大型
その分、充電は速いだろう

インターフェイス(接続端子)は、もちろん最新。
左右両方に USB4(40Gbps)の USB-C があり、左側には HDMI(2.1)とイヤホン/マイク共用ジャックが。
右側には普通の USB(10Gbps)と micro SDカードリーダーがある。

側面後部と背面部は通気口になっており、エアフロー重視の設計のため、13型であることもあって、有線LAN や DisplayPort などは備わっていない。
ただ、サイズを考えるとできる限りの端子を用意している印象だ。

なお、USB-C は映像出力(USB-ALT)やモバイル充電(USB-PD)に対応している。

ASUS ProArt PX13 HN7306 左側面

左側面。手前には充電ランプもある

ASUS ProArt PX13 HN7306 右側面

右側面。普通のUSBと電源ボタンはこちら

無線通信は最先端の Wi-Fi 7 に対応Bluetooth も 5.4 と、こちらも最新。
まだ Wi-Fi 7 ルーターや Bluetooth 5.4 対応機器は少ないが、最新のものが備わっていれば、いずれそれらを活用できるので嬉しい。

モニター / サウンド / カメラ

ASUS は業界ナンバー1の OLED(有機ELディスプレイ)搭載ノートPCメーカーだ。
本機ももちろん、高発色で高精細な OLED モニターを搭載している。

解像度は2880x1800、いわゆる「3K」の高画質で、縦横比 16:10 のため作業しやすく、画面サイズの割に広く感じる。
発色の目安となる DCI-P3 は100%(sRGB比 133%相当)で、コントラスト比も一般の液晶が1000:1なのに対し、100万:1。
視野角は全方位170度ともちろん広く、色差(Delta E)も最高の E<1。
輝度は最大500nitと野外で使えるほど高く、センサーによる明るさと色温度の自動調整に対応している。

また、本機はモニターを360度一回転させて、タブレットのように扱うことも出来るコンパーチブル(折り返し型)の 2in1 であり、よってイラスト作成などもできるようタッチパネルとなっている。
筆圧検知レベルは4096で、高画質なお絵かきタブレットとしても使用可能だ。

ASUS ProArt PX13 HN7306 OLEDモニター、自立スタイル
※このように畳んで自立させることもできる。クッキリ画質で色鮮やかな3Kの有機ELディスプレイで、高解像度動画も美しい。

OLED(有機EL)は非常に高性能だが消費電力が多く、焼き付きが生じやすい、チラつきやすいといった弱点もある。
だが、ASUS はわずかに表示を動かして焼き付きを抑えるピクセルシフトや、チラつきを抑制するフリッカーディミング、独自のパワーセーブ機能といった、OLED 保護技術を持っている。

クリエイターモデルなので細密な色校正も可能で、専門外なので詳しくはわからないが、本機の超高発色と機能なら写真や出版物の編集にも使えるはずだ。

ゲーミングモデルではないため、リフレッシュレートは60Hzと一般的。
光沢液晶なので写り込みはあるが、非光沢にすると発色が落ちるため、OLED のクリエイターモデルなら光沢液晶が普通だ。

また、モニターの表面はスマホなどに使用されていることで知られるゴリラガラスで覆われており、高い透明度と強度を誇る。

ASUS ProArt PX13 HN7306 タブレットスタイル

タブレットスタイルにして、タッチペンで作業を行うことも可能

ASUS ProArt PX13 HN7306 カラーマネジメント

カラーマネジメント画面
プロ向けの専門機能も備わっている

スピーカーは音響メーカー Harman Kardon(ハーマンカードン)のものを搭載、さらにイコライザー(音響調整ソフト)として Dolby Atmos を備える。

聴いてみた印象としては、さすがハーマンカードンだけあってクリアな音質という印象だ。
低音もよく響き、特に調整しなくても十分な音質を誇る。

ただ、個人的にはドルビーのソフトで「ダイナミック」の設定にした方が、音響と低音が広がって好みだった。
ともあれ、サウンドはとても良い。

3つのマイクで360度の音を拾うことができ、独自のAIノイズキャンセラーも搭載している。

ASUS ProArt PX13 HN7306 ドルビーアトモス

サウンド設定。まずは一通り聴いてみよう

ASUS ProArt PX13 HN7306 ノイズキャンセリング

正面に集中する指向性録音など機能が豊富

現時点(2024年8月時点)で、ちょっと問題があったのはカメラだ。
本機には FHD(200万画素)のWEBカメラが備わっており、本来、第2世代の AI PC であるため「Windows スタジオエフェクト」と呼ばれるWEB会議用の映像補正機能を使うことができる。
背景ぼかしや、目線補正、明るさ補正といったものだ。

だが、本機が搭載する Ryzen AI 9 は第2世代の AI PC の認証「Copilot+ PC」の基準を満たしているものの、マイクロソフトの検証が終わっていないという理由で、(8月時点では)Copilot+ PC に認定されていない。
よって Windows スタジオエフェクトの各種機能を扱えない。

Windows スタジオエフェクトがあるからか、独自の背景ぼかしなども入っていないため、8月時点でオンライン会議用のカメラ補正は何もない。

年末までには認定され、アップデートで利用可能になると言われているが、当面使えない点は留意しておこう。

パーツ性能

処理性能(CPU)

本機(ProArt PX13 HN7306)は CPU に Ryzen AI 9 HX370 を搭載する。

AMD社の最新設計「Zen 5」で作られたノートパソコン用のCPUで、2024年8月に市場投入されたばかりの新型だ。
名前の通り AI 専用のコア(NPU)を内蔵しており、その能力は 50TOPS
これは現行の個人向けCPUの中ではもっとも高い。

ちなみに、昨年から今年初めに発売された Core Ultra や Ryzen 7040 / 8040(Zen4)のNPUは、10~16TOPS。
6月に発売された Snapdragon X Elite は 45TOPS だが、動かないソフトウェアが多く、そうした欠点のない第2世代と言えるNPUを持つCPUとしては、Ryzen AI 9 が最初となる。

処理能力も非常に高く、Zen5 コア(Pコアに相当)4つと、Zen5c コア(Eコアに相当)8つを持つ、12コア24スレッド
そして前世代の Zen4 より低い電力で高い性能を発揮できる。

ただ、上位型である Ryzen 9、しかも性能重視のHXモデルであるため、価格は高い。

AMD Ryzen AI 9 HX370, CPU-Z

基準のTDP(電力と発熱の目安)は 28W になっているが、実際には 15~54W まで、かなり幅広い調整が可能になっている。
さらに Ryzen AI 9 HX370 はブースト時の電力を最大70Wまで設定できるようで、よって実際の処理速度は、この電力設定によって変わってくる。

本機は パフォーマンスモード、スタンダードモード、ウィスパーモード という3つの動作モード(オペレーションモード)を用意しており、これによって電力やCPUの動かし方、冷却ファンの回転数(騒音の大きさ)が変化する。

MyASUS や ProArt Creator Hub という設定ソフトで変えることができ、高負荷な作業をするときはパフォーマンスに、静かに使いたいときやバッテリーを節約したいときはウィスパーにするといったように使い分けができる。
Fn+F キーでも変えられるので覚えておこう。

ASUS ProArt オペレーティングモードとGPUモード

以下はパフォーマンスモードで測定したCPUベンチマークソフト Cinebench の結果だ。
比較グラフには、他の動作モードの結果も含めている。

なお、パフォーマンスモードは電源接続時しか選べない。
バッテリー駆動時はスタンダードかウィスパーになる点は留意してほしい。

Ryzen AI 9 HX370, CINEBENCH R23, ASUS ProArt PX13 HN7306 パフォーマンス

Cinebench R23(パフォーマンス)

Ryzen AI 9 HX370, CINEBENCH 2024, ASUS ProArt PX13 HN7306

Cinebench 2024 の測定結果

マルチコア性能(Cinebench R23)

Core i9-14900HX(125W):24000

Ryzen AI 9 HX370 (65W):22930 (パフォーマンス)

Core i9-13900HX(100W):22000

Ryzen AI 9 HX370 (20-55W) 21500 (スタンダード)

Ryzen AI 9 HX370 (20-50W) 21100 (ウィスパー)

Core i7-13700HX:20000

Ryzen 9 8945HS(75W):17000

Ryzen 7 7840HS(80W):16900

Core i9-13900H(45W):13700

Core i7-13700H:13500

Ryzen 7 8840U:12500

Core Ultra 7 155H (45W):12000

Core Ultra 5 125H:10500

Ryzen 5 6600H:9750

Core i7-1360P:9700

Ryzen 7 7730U:9600

Core i7-1355U:7000

Ryzen 3 7330U:4950

Intel U300:4050

Celeron N5100:1400

マルチコア性能(Cinebench 2024)

Ryzen AI 9 HX370(65W):1200

Snapdragon X Elite X1-E78-100:1030

Ryzen 9 8945HS(75W):950

Ryzen 7 7840HS(80W):945

Core i7-13620H(90W):820

Core Ultra 7 155H(45W):670

Core i7-1360P(28W):545

Core Ultra 7 155U(20W):380

※シングルコアは Ryzen AI 9 が 115、Snapdragon X Elite が 108。

シングルコア性能(Cinebench R23)

Core i9-14900HX:2150

Ryzen AI 9 HX370:2020

Core i9-13900HX:2020

Core i9-13900H:1900

Core i7-13700HX:1850

Core i7-13700H:1850

Core i7-1360P:1820

Ryzen 9 8945HS:1800

Core Ultra 7 155H:1760

Ryzen 7 7840HS/U:1760

Core Ultra 5 125H:1740

Core i7-1355U:1720

Intel U300:1560

Ryzen 5 6600H:1480

Ryzen 7 7730U:1430

Ryzen 3 7330U:1370

Celeron N5100:580

※近年の全CPUとの比較は こちら をご覧ください。

本機のパフォーマンスモードでは 65W の電力が投入されていたが、マルチコアのスコアは22930という素晴らしい結果。
Core i9-14900HX などが 100W 以上の電力を投入しないとスコア22000を越えないのに対し、なんと65Wで約23000のスコアを出している。

圧倒的な電力効率で、もちろん Zen4 の Ryzen と比べても比較にならない。
Zen5 の「低い電力で高い性能を発揮できる」というアピールは、伊達ではなかった。

同じ第2世代 AI CPU と言える Snapdragon X Elite と比較しても、明らかに性能上位。
Ryzen が伝統的に弱かったシングルコアのスコアも2020と非常に高く、ハイスペック用のCPUとして、性能面は申し分ない。

測定中のコア温度は85~95℃と高く、動作音も 55db 前後の大きめの音が鳴っていた。
キーボード表面もかなり熱を持っていたが、13.3インチの小型ノートなので、この辺は仕方ないところか。

一方、スタンダードモードでは、CPUの動作が変化した。
当初は 55W ほどの電力を投入していたが、80秒ほどで 20W に低下。
それだけならターボブーストと同じなのだが、それから1分ほど経つとまた 50W に戻って、以後、一定間隔で 50W と 20W の行き来を繰り返した。
どうやら Ryzen AI は PL2 / PL1(ブースト電力と通常電力)が一方通行ではないようだ。

スタンダードでの測定スコアは、マルチコアで 21500。シングルコアは変わらず 2020。
この動作でもマルチコアは2万を超えており、ますます電力効率が上がっている。

Ryzen AI 9 HX370, CINEBENCH R23, ASUS ProArt PX13 HN7306 スタンダード

ベンチマーク中はずっと高負荷がかかるので、騒音はやはり 50db 前後と大きめだったが、コア温度は75~90℃辺りまで落ち、20Wで動作しているときは60℃台まで下がっていた。
そのため表面温度もかなり低下した。

ウィスパーモードもスタンダードと同じく 50W と 20W を行き来していたが、20W の時間が多めだった印象。
騒音は一般的な 45db 辺りまで下がり、シングルコア測定中や、低負荷時にはほぼ無音。
それでもスコアはマルチコア 21100、シングルコアは 2010と、驚くほど高い。

Ryzen AI 9 HX370, CINEBENCH R23, ASUS ProArt PX13 HN7306 ウィスパー

これなら普段はウィスパーモードでの使用でも良い気がする。
低負荷時に無音になるのは、ASUS 独自の「0db アンビエントクーリング」という技術の影響もあると思われる。

以下はパソコンの作業速度測定ソフト PCMark10 の結果。
パフォーマンスの測定はビデオカードON、ウィスパーの測定はビデオカードOFF(Ryzen AI 9 の内蔵GPU使用)にしている。

PCMark10, ASUS ProArt PX13 HN7306, パフォーマンス+ビデオカードON

パフォーマンス+GeForce RTX 4070

PCMark10, ASUS ProArt PX13 HN7306, ウィスパー+ビデオカードOFF

ウィスパー+Ryzen AI 9 HX370 内蔵GPU

アプリの起動速度やウェブサイトの閲覧といった基本の処理は、誤差程度の差しかない。
素晴らしいのは表計算の数値で、Ryzen はこの処理を得意としており、14000 を超える高いスコアを記録した。
画像加工も16000越えと、Ryzen AI 9 + GeForce 4070 としては妥当かつ優れた数値だ。

注目なのはウィスパーモード+ビデオカードOFFのテストの方だろう。
ウィスパー、つまり静音で省電力のモードでも、表計算は12000に近い評価値が出ている。
また、オンライン会議の測定で高いスコアが出ており、Ryzen AI 9 の GPU はWEB会議時の映像処理が改良されているのかもしれない。

さらに画像加工は15000を超えており、これはビデオカードなしでの測定では、当方で測った中では過去最高だ。
高い処理能力に加え、新型の内蔵GPUが有効に働いているものと見られる。

本機はバッテリー駆動時にビデオカードをOFFにして節電することができるが、その状態でもかなり高い性能を発揮することができそうだ。


なお、本機には3つの動作モードがあると述べたが、もう一つ「手動モード」が存在する。

自分で投入電力とファン速度を決められるもので、あまりムチャな設定にするとパソコンに負担がかかってしまうが、もう少しパワーを底上げしたり、逆にもっと省電力にすることもできる。
パソコンに詳しい人はオリジナルのモードで使ってみるのも良いだろう。

ASUS ProArt Creator Hub 手動モード設定
※手動モードは ProArt Creator Hub のダッシュボードから設定できる。
SPLは通常電力でPL1、SPPTはブースト時の電力でPL2に相当する。FPPTは一瞬だけ出せる最大パワーで最大値で良い。
ファン速度は□の部分をつかんでスライドすることで調整できるが、一定以上に下げることはできない。
なお、設定できる電力はコンセントに繋がっているかどうかで変化する。

グラフィック機能(GPU)

ASUS ProArt PX13(HN7306)には、ノート用の GeForce RTX 4070GeForce RTX 4060 を搭載したモデルがある。

どちらも現在主流のビデオカード GeForce 4000 シリーズの主力モデルで、ビデオメモリは GDDR6 が 8GB
最新の DLSS 3 を活用でき、旧モデルより電力効率も優れる。
AI に使用した場合の処理能力は 4070 は 321TOPS、4060 は 233TOPSだ。

まあ、GeForce RTX 4070 や 4060 の性能の高さについては、多くの方がご存じだろう。
本機で注目なのは Ryzen AI 9 HX370 の内蔵グラフィック機能 AMD Radeon 890M の方だ。
俗に RDNA3.5 と呼ばれている Zen5 の新型CPU内蔵グラフィック機能のひとつである。

「ビデオカードがあるならCPU内蔵グラフィック機能は無意味なのでは?」と思うかもしれないが、本機は普段はCPU内蔵機能を使い、グラフィック負荷の高い時だけビデオカードを使用するモードが標準になっている。
さらにコンセントに繋がっているときだけビデオカードを使う最適化モードや、ビデオカードを常にOFFにして省エネと静音化を行うエコモードもある。
つまり、普段はむしろCPU内蔵グラフィック機能が主に使われる。

以下はパフォーマンスモードで実行した、ベンチマークソフト 3D Mark:TimeSpy の結果。
まず GeForce RTX 4070 Laptop 使用時のスコアを掲載したい。

GeForce RTX 4070 Laptop, 3DMark TimeSpy, ASUS ProArt PX13 HN7306
※ゲームパフォーマンス予測の1080pは解像度1920x1080、1440pは2560x1440。
Ultra は最高画質設定であることを示す。

グラフィックスコアは約10000
GeForce RTX 4070 Laptop の平均スコアは 12000 なので、やや低い。
これはノート用 GeForce 4070 の最大電力は 115W だが、本機は 95W であるためだ。

13型のノートPCなので、発熱と消費電力を抑える必要があるためのようだが……
それでもサイズを考えると、破格のグラフィック性能と言える。

なお、スタンダードモードだとスコア 9700(97%)、ウィスパーモードだとスコア 9000(90%)のグラフィック能力となった。
動作モードを変えても、ビデオカードの動作に大きな影響はなさそうだ。

では、ビデオカードOFFにして、Ryzen AI 9 HX370 のCPU内蔵グラフィック機能で測定してみるとどうなるか?
結果は以下の通りだ。

Ryzen AI 9 HX370 iGPU, 3DMark TimeSpy, ASUS ProArt PX13 HN7306

グラフィックスコアは約3500
これは Intel の Core Ultra 7 の内蔵グラフィック性能と同程度である。

ただ、Core Ultra の内蔵グラフィック機能は Intel Arc と呼ばれる新タイプのもので、それ故にドライバやソフトウェアの対応が不十分な場合がある。
この夏のアップデートでだいぶマシになったのだが……
それでも Ryzen が内蔵する Radeon は昔から使われてきたものなので、その辺の問題がなく、同等のスコアなら Ryzen / Radeon の方が速度は上だと思って良い。

また、Wild Life Extreme という軽量測定では、Core Ultra や Snapdragon X より若干良い結果が出た。

以下は、これらの結果を他のビデオカード/グラフィック機能と比較したグラフだ。

・3D Mark: TimeSpy(ノート用GPU)

GeForce RTX 4080 Laptop:19000

GeForce RTX 3080 mobile:12000

GeForce RTX 4070 Laptop:12000

GeForce RTX 3070 mobile:10400

GeForce RTX 4060 Laptop:10300

GeForce RTX 4070 Laptop:10000(本機)

GeForce RTX 4050 Laptop:8500

GeForce RTX 3060 mobile:8350

GeForce GTX 1660Ti mobile:5550

GeForce RTX 3050 4GB mobile:4850

Ryzen AI 9 HX370(CPU内蔵、Zen5):3500

Core Ultra 7 155H(CPU内蔵、Arc A):3500

GeForce GTX 1650 mobile:3400

Ryzen 9 8945HS (CPU内蔵、Zen4 後期):2750

Ryzen 7 7840HS (CPU内蔵、Zen4):2500

第13世代 Core i7(CPU内蔵、Iris Xe):1800

Ryzen 7 7730U(CPU内蔵、Zen3):1200

Ryzen 3 7330U(CPU内蔵、Zen3):580

・3D Mark: Wild Life Extreme(CPU内蔵GPU)

Ryzen AI 9 HX370(Zen5):42fps(本機)

Snapdragon X Elite X1-E78-100:39fps

Core Ultra 7 155H(ドライバ更新後):39fps

Core Ultra 7 155H(Intel Arc):34fps

Ryzen 7840U(Zen4):27fps

Core i7-1360P(Iris Xe):24fps

では、実際にソフトウェアがどのぐらい動くのか?

以下は人気ゲームを実際に動かしてみた動作速度の一覧だ。
パフォーマンスモードで検証しており、ビデオカードON、ビデオカードOFF、それぞれの結果を表記している。

本機(ProArt PX13)はモニターの解像度が 2880x1800 なので、それを基準としている。
一般的な 1920x1080 より高負荷なので、その点を加味して見て欲しい。
※動画は検証機で録画したものですが再生速度は30fpsです。止まっている場合は長押しして下さい。

高画質の解像度2880x1800(実質2880x1620)のビデオカードONで、戦闘中は75~85fps。
60fpsを超えており、快適に動作する。

ビデオカードOFF(CPU内蔵GPU)の場合、解像度2880x1800では無理。
解像度1920x1200(実質1920x1080)なら高画質で戦闘中に40fps前後。
30fpsを超えているためプレイ可能で、中画質にすれば80fpsで動作する。

ビデオカードON、解像度2880x1800で DLSS がバランスだと 80~90fps。
とても滑らかに美しい映像が表示される。

ビデオカードOFFで解像度2880x1800、画質「高い」の場合、FSR3(Radeon の DLSS3 に相当する機能)をバランスにすれば 25~35fps。
やや辛いが、遊べないことはない。
解像度 1920x1080 で FSR3 使用なら 40~45fps 前後になる。
描画速度に合わせて画質を変える動的解像度スケーリングを60にすると 50fps 台で動く。

解像度2880x1800の高画質、DLSS パフォーマンスで、75fps 前後の速度になる。
全く問題はない。ちなみに DLSS をオフにすると 45fps に下がる。

ビデオカードをOFFにした場合、解像度2880x1800では 30fps を切ることが多い。
解像度 2560x1440 の中画質にすれば、30~50fps で動くのでプレイが可能。
8月時点でこのゲームをCPU内蔵グラフィック機能で動かせるのは、Ryzen AI 9 だけだ。

解像度2880x1800の最高画質で、ビデオカードON、DLSS バランスなら 75~90fps。
快適に動かすことができる。

ビデオカードOFFの場合、解像度2800x1800だと FSR3 を使っても高画質だと 25~30fps。
解像度を 1920x1200 にすれば高画質でも 60fps で快適に動く。

なお、このゲームは DLSS や FSR の効果が大きいのだが、初期設定ではOFFになっているので、グラフィックの詳細設定で必ずONにしておこう。

ビデオカードONの場合、起動時のベンチマークスコアは496。
解像度 2880x1800 の最高画質(描画スケーリング85)でも、DLSS バランスを使用すれば 60fps をキープできる。

ビデオカードOFFの場合、ベンチマークは344と妙に高いが、そのレベルの速度は出ない……
FSR2 に対応しているが、FSR2 パフォーマンスでも高画質だと解像度 2880x1800 では無理。
解像度 1920x1080 なら 50fps で動くが、このゲームは 60fps ないと動作が遅くなる。
中画質にすれば 60fps をほぼキープできる。

HIGHEST(最高画質)の解像度 2560x1440 で、バトルは 60fps をキープ可能。
街を散策するシーンもほぼ 60fps で、全く問題ない。

ビデオカードOFFの場合、解像度 1920x1080 の NORMAL 画質でも無理。
画質 LOW なら 60fps でプレイ可能。
町を散策するシーンは意外と軽快で、NORMAL 画質でも 45~55fps で動作するので「WTのバトルを30フレーム固定」にすれば遊べる。


GeForce RTX 4070 なら3K解像度でも高画質で快適に最新ゲームが動作する。
本機は少しビデオカードの投入電力が少ないが、動作速度は十分だ。

Ryzen AI 9 HX370 の内蔵グラフィック機能も、CPU内蔵としては、さすがに素晴らしい。
Core Ultra 7 155H より一回り高い動作速度があり、 例えばモンスターハンターライズは Core Ultra 7 155H だと中画質で60fpsだが、Ryzen AI 9 HX370 なら80fps。
Snapdragon X Elite だとそもそも動かない。

ストリートファイター6 は Ryzen AI 9 HX370 だと画質 LOW で動くが、Core Ultra 155H や Snapdragon X Elite は LOWEST(最低画質)まで落とさないと無理だ。

もちろん3D描画のある一般のソフトウェアやマップ表示、映像編集、DirectX で動く 3D CAD(設計ソフト)などにもグラフィック性能は影響する。

強力なビデオカードと優れたCPU内蔵GPUを持つ本機は、クリエイターモデルとしてもゲーミングモデルとしても一流だ。

ストレージ(記録装置)とメモリ

ストレージ(データ記録装置)には容量1TBの NVMe SSD が使われている。
高速な小型ストレージで、より速い第4世代 PCIe 対応品(Gen4)を使用。

検証機に使われていたのはウェスタンデジタル社の SN740 という製品。
小型ノートだからか、かなり短いもの(2230)が使われていた。

実機でのベンチマークの結果は以下の通り。

WD SN740 2230, Crystal Disk Mark, default

標準設定での測定

WD SN740 2230, Crystal Disk Mark, NVMe SSD Mode

NVMe SSD 設定の測定

読み込みは約5270MB/s、書き込みは約4950MB/s。
どちらも Gen4 の NVMe SSD らしい優れた数値であり、しかも公称値より少し高い。

ただ、ランダムアクセスの測定は、読み込みは良いが、書き込みが 200MB/s 台と低かった。
これは Core Ultra にも見られる症状で、おそらく新型ノート用CPUに備わっている省電力機能の影響だと思われる。

メモリは LPDDR5X-7500 を 32GB 搭載している。
最新の省電力メモリで、LPDDR5X はオンボード(基板に張り付け)専用なので交換はできないが、量も速度も十分で、申し分ない。

AI 機能について

Ryzen AI 300 シリーズを搭載する本機は、(8月時点で)まだ Copilot+ PC の認定は受けていないものの、第2世代の AI PC と言える。
よって様々な AI 機能が搭載されているので、少し紹介しておこう。

まず AI PC の証(?)と言える Copilot キーが付いており、Windows の AI アシスタント Copilot を手軽に呼び出せる。
様々な質問、例文の作成、画像生成など、多様なことをやって貰える。

Copilot

実際のところ、現時点の Copilot はネットワーク上のサーバーコンピューターで処理されているため、使っているパソコンのAI性能は影響しないのだが……
将来的には NPU や GeForce を使って処理をする、いわゆるエッジ AI 化する計画もあるので、その両方を備えている本機なら、より快適な AI PC になる…… はずだ。

また、本機には ASUS 独自の AI アプリケーションが搭載されている。
思考を視覚化する AI アイデアツリー「Muse Tree」、写真を自動で分類してスライドショーなども作成してくれる AI アルバム「Story Cube」などを利用できる。

Muse Tree

最近流行りの思考ツール。キーワードに応じたAI生成の画像が付く

Story Cube

スマホでおなじみの自動分類アルバムも、AIでさらに進化する?

最近は Adobe の Photoshop にも AI 生成機能を利用する画像修正、絵の入れ替え、カラー修正など、新たな機能が続々追加されており、クリエイターなら注目だ。

今後、Ryzen AI が Copilot+ PC の認定を受ければ、前述したオンライン会議の映像補正機能 Windows スタジオエフェクト の他に、AI 画像生成の Image Creator といった機能も使えるようになるだろう。

Ryzen AI が Copilot+ PC に認定されていないのはマイクロソフトの販売戦略のためと思われ、ハードウェア的には何も問題はない。
年末か来年初めには認定されるものと思われる。

正直、今の時点で AI が必要かどうかと言われると微妙だが、今後も関連機能は続々出てくるだろうし、次期 Windows も 40TOPS 以上の NPU が必要になると告知されている。
将来を考えれば、高NPUの AI PC を選んでおきたいのは確かだ。

総評

何度も述べているが、手軽でコンパクトな13型ノートに Ryzen AI 9 と GeForce RTX 4070 が入っているのが、もう普通じゃない。
ASUS は尖ったマシンを作ること、作れることで知られているが、そんな特異な製品のひとつであり、小型高性能機が欲しい人にとっては夢のパソコンと言える。

Ryzen AI 9 HX370(Zen5)の性能、特に電力効率は予想していた以上で、これを一度見てしまうと、他のCPUが霞んでしまうほど。
内蔵GPUも期待通りであり、今後のために必要なNPUも備わっていて、非の打ち所がない。

本機は GeForce RTX 4060/4070 を搭載するのに加え、モニターも OLED で非常に美しい。
このサイズと重さで本格作業もできる高性能を持ち、耐久性もあるため、ノマドワークやアウトドアなど、多様な使い方ができそうだ。

そのぶん、価格は高いのだが……
GeForce RTX 4060 モデルなら約30万円なので、本機の機能を考えればむしろコスパは良い。
ただ、プロクリエイターには、やはり GeForce RTX 4070 搭載機を勧めたい。

このサイズのPCとしては性能は現時点で最強で、他にこのレベルの小型高性能機を作ろうとするメーカーはないと思うので、今そんなパソコンが欲しいなら本機一択と言って良いだろう。

ASUS ProArt PX13 HN7306

ProArt PX13 HN7306icon

形式:13.3インチ ノートパソコン
 ※コンパーチブル(折り返し型)2in1
CPU:Ryzen AI 9 HX370(Zen5、NPU 50TOPS)
グラフィックス:GeForce RTX 4070 Laptop 8GB
(GeForce RTX 4060 Laptop 搭載機もあり)
メモリ:32GB(LPDDR5X)
ストレージ:1TB NVMe SSD(Gen4)
モニター:縦横比16:10、OLED (有機EL)、タッチパネル、解像度2880x1800、DCI-P3 100%(sRGB133%相当)、Delta E <1、筆圧検知4096段階
サウンド:Harman Kardon のスピーカー、Dolby Atmos
通信:Wi-Fi 7、Bluetooth 5.4
重量:約1.38kg、ACアダプタ565g(200W)
バッテリー:73Wh
その他:ダイヤルパッド、顔認証、3+1の動作モード、USB4、高速充電、ビデオカード給電OFF機能、AIノイズキャンセリング、独自のAIアプリ
定価(税込)
GeForce RTX 4070 搭載機:429,800円
GeForce RTX 4060 搭載機:299,800円

※詳細は ASUS 公式ストア もご覧下さい。
※仕様・価格は時期により変更の可能性があります。